薬物療法
サイコセラピーを専門にしてきた分、お薬も適量を適切にちゃんと使えるよう心がけてきました。どういう種類のお薬を何のために使うのかご説明します。効果だけでなく副作用の可能性(世の中の全てのお薬で副作用の可能性がないものは残念ながら存在しません)についても説明いたしますし、服用していて気になる点は遠慮なく仰っていただきたいです。お薬を細かく調節、整理することを心がけているので、逆に手っ取り早く希望通りの処方を出して欲しい方や以前の医療機関からの多量のお薬をそのまま出し続けて欲しいご希望の方には私のやり方はあまり合っていないかもしれません。
患者さん自身の回復力、治る力も大事にしたいと思っています。お薬の治療やサイコセラピー(カウンセリング)以外にご自分で出来る取り組み、腹式呼吸や自律訓練法、簡易的な瞑想法(マインドフルネス)や健康法、生活習慣、運動などについても出来るだけアドバイスするようにしています。
以前働いていたクリニックのデイケアでの患者さんへのご説明や病院での若手医師への小講義に使っていたスライドの内容を以下に記載いたします。
はじめに
精神科の病気には統合失調症、うつ病、双極性障害、パニック障害など薬物療法が必要なものが多く、適切に使用すれば症状の改善や安定に役立つことが多い。
副作用のリスクもありなるべくシンプルな処方が理想だが日本は多剤併用とBZPを安易に多用することで悪名高い。
忙しい中でも効果と副作用について出来るだけ説明することが患者さんの服薬アドヒアランスを上げる(医者が思っている程ちゃんとのんでくれていないことは多い)。
精神科で処方される主な薬(向精神薬)
- 抗うつ薬
- 気分安定薬
- 抗精神病薬
- 抗不安薬
- 睡眠薬
- ADHD治療薬
その他に抗てんかん薬、抗認知症薬、アルコール依存症治療薬など
抗うつ薬
三環系
(アナフラニール、トフラニール、トリプタノール、アモキサンなど)
しっかり効くので今でも使われる(特に年配のDr)、ただし抗コリン系などの副作用(立ちくらみ、便秘、口渇、排尿障害など)も出やすい。
四環系
(デジレル(レスリン)、テトラミド、ルジオミールなど)
三環系よりマイルド、睡眠の補助などに使うことが多い。
SSRI、SNRI開発以降、主剤としての使用頻度は少ない。
ドグマチール
(スルピリド)
古くは胃薬出身で独特の持ち味(抗精神病薬でもある)、食欲不振、妄想性うつなどへの効果
食欲亢進、乳汁分泌、女性化乳房などのリスク。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
(ルボックス(デプロメール)、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロなど)
セロトニン系の神経伝達物質に働きかけ、抗不安作用が強いためうつ病だけでなく不安神経症やパニック障害にもよく使われる。
投与初期の吐き気、下痢やactivation syndromeに注意、時に性機能障害など。パキシルは離脱症状に注意。
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
(サインバルタ、トレドミン、イフェクサー)
セロトニン系+ノルアドレナリン系の神経伝達物質に働きかけ、不安への効果に加え意欲・気分の改善効果も併せ持つ。
サインバルタは神経痛や慢性疼痛に効くことも。
口渇、便秘、立ちくらみ、尿閉などに注意。
リフレックス
(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬:NaSSA)
SSRI・SNRIとは別系統でセロトニン系+ノルアドレナリン系に働きかける。
比較的効きが早い、良くも悪くも眠気・食欲増進効果が出やすい。
消化器系や性機能系の副作用は少ない。
トリンテリックス
(S-RIM:セロトニン再取り込み/セロトニン受容体モジュレーター)
セロトニン系に作用するが副作用は比較的少ない。
マイルドなSSRI?→個人的にはまだ評価定まっていない。
気分安定薬
気分の波をやわらげる、高い時は抑え低い時は持ち上げる。
リーマス
(炭酸リチウム)
抗うつ効果あり、効果発現に少し時間がかかる。
血中濃度測定が必要、手の震え、嘔吐下痢、甲状腺機能低下などに注意。
バルプロ酸ナトリウム
(デパケン、バレリン)
効果早め、抗うつ効果は弱め。イライラや怒りっぽさに有効、血中濃度測定が必要、眠気、肝機能障害に注意。
カルバマゼピン
(テグレトール)
怒りっぽさや攻撃性に有効、血中濃度測定が必要、眠気、ふらつき、肝機能障害、皮疹に注意
→これら3剤は妊娠・授乳期使いにくい(代わりに後述の抗精神病薬の一部を使用したりする)
ラミクタール
上記3剤よりマイルドな印象、うつ状態に効果あり。
皮疹に注意、ゆっくり増やす。
抗精神病薬
主に統合失調症用だが、双極性障害、うつ病、パニック障害その他の疾患に補助的に使うこともある。
第一世代(定型)
(セレネース、コントミン、ヒルナミン(レボトミン)、ドグマチール、インプロメン、ロドピン、クロザリル etc…)
主にドーパミン系の神経伝達物質のバランスを整え、幻覚や妄想、興奮などを抑える。
錐体外路症状(手足の強直、小刻み歩行、アカシジア、ジスキネジア)、流涎、ふらつき、便秘などの副作用のリスク。
第二世代(非定型)
(SDA: リスパダール、インヴェガ、ロナセン、ルーラン、ラツーダ、MARTA: ジプレキサ、セロクエル(ビプレッソ)、クロザリル、シクレスト、DPA: エビリファイ、レキサルティ)
ドーパミン系に加えノルアドレナリン系、セロトニン系など複数に働きかける、あるいは働きかけ方が特徴的、など(詳しくは成書を)。第一世代の効果に加え陰性症状にも一定の効果があるとされる。
錐体外路症状は出にくいものが多いが、糖尿病には使えないものがある、食欲亢進(体重増加)、時に性機能障害などそれぞれ特有のリスクはある。
その他
クロザリルは好中球減少のリスクあるため登録医のみ指定医療機関で処方可能、頻回の採血を要し導入は入院で。
ジプレキサ、エビリファイには抗躁・抗鬱効果、ラツーダ、ビプレッソには抗うつ効果もあるため双極性障害にも使われたりする。
液剤や粉、持続効果注射薬(LAI)、貼付薬など剤型は色々ある。
抗不安薬
一定の時間不安緊張、焦燥感をやわらげる。
ベンゾジアゼピン系
(ソラナックス、レキソタン、ワイパックス、デパス、セルシン、リーゼ、メイラックスなど)
神経伝達物質のGABAの働きを調節して不安・緊張・苛々などを軽減する。
短時間型は即効性ある分依存しやすい、なるべく徐々に減らす取り組みを。
筋弛緩作用や認知機能への影響も問題。高齢者ではせん妄の要因になったりも。
アルコールとの併用は危険。
非ベンゾジアゼピン系
(セディールなど)
依存性低いが効果もマイルド。
睡眠薬
バルビツール系
呼吸抑制や依存性、過量服薬時の危険性から現在はなるべく使用を控えることが多い。
ベンゾジアゼピン系
(レンドルミン、デパス、ハルシオン、エバミール、ロヒプノール、ベンザリン、ユーロジンなど)
現在主に使われている。超短時間型、短時間型、中時間型、長時間型があり、不眠のタイプに応じて使い分ける。
可能ならやがて減量、中止を目指したい。アルコール併用は危険、睡眠時無呼吸症候群には悪影響あることも。
非ベンゾジアゼピン系
(アモバン、ルネスタ、マイスリー、ロゼレム、ベルソムラ、デエビゴなど)
依存性・耐性のリスクがより低い。効果はマイルド?
前の3つは作用する受容体はBZP系と同じ、ふらつき少ない。
ロゼレム
メラトニン受容体に働きかける。
ベルソムラ・デエビゴ
オレキシン受容体を阻害(眠くする所を刺激ではなく目を覚まさせる所を抑える)。
ストラテラ
ノルアドレナリン系に作用する、マイルド。
コンサータ
ノルアドレナリン系に加えてドーパミン系に作用する。
前身のリタリンは依存性が社会問題に。
徐放剤として改良され認定医療機関、医師のみ管理システムに登録した患者に対し処方可能。
インチュニブ
α2Aアドレナリン受容体作用薬。
静穏作用あり。
雑感
副作用かも?という質問はwelcome
なるべく短時間型のBZP系抗不安薬は最小限に(個人的にはこのため長時間型のメイラックスを使うことが多い)。
止めるのが大変。
短時間型2剤併用はかなり悪手。
他院で出されていて困ることも。
しかし正直睡眠薬はBZP系使わずに対処するのがなかなか難かしいことも多い(特に既に治療歴ありBZP使用されている場合)
せめて初発例については統合失調症ならなるべく抗精神病薬は単剤、鬱なら抗うつ薬は単剤、眠剤もはじめは非BZP系から、とシンプルで安全性高い処方を目指している。
(よく聞かれるが)原則アルコールとの併用は勧められない(適切な効果が得られない、相互作用で危険な酔い方、肝臓への負担などのため)。
妊娠・出産期の服薬に関する質問も多い。
メリットとデメリットを慎重に考慮する必要があるが特にMDIの場合は悩ましい。
車の運転もよく聞かれるが添付文書上禁止や注意が大半で返答に困ることが多い(眠気が目立たなければ、初めて服用した後に運転しないで、など・・)。
引き継ぎケースの多剤併用処方は前医の怠慢で整理可能な場合とやむを得ない事情の場合があるので要注意(重症例や危険行動のリスク高い場合の調節は慎重に)。
心理教育試みる、カウンセリングや腹式呼吸、自律訓練法、マインドフルネスなどのセルフリラクゼーションについても説明する、など非薬物療法も絡める意識。